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2010年10月 アーカイブ

新しい睡眠の可能性

睡眠とは、考えてみると不思議な現象ですよね。


夜になると別に寝ようと思わないのに、なんとはなしに眠くなります。


そして横になると、いつのまにか眠ってしまう・・・。


なぜ眠るのでしょう。


眠らないですめばもっと仕事ができるし、この世の中をもっと楽しむことができるのに。


人生の3分の1を何もしないで眠ってしまうのは、はなはだもったいない話ですね。


なぜ私たちは眠るのでしょうか。


どの位まで睡眠時間を切りつめられるでしょうか。


本当に眠りは私たちにとって必要なのか・・・という疑問をもつ人たちが少なくないようです。


このような疑問への答えは、睡眠時間の個人差を調べたり、断眠の効果を観察することで得られます。

逆説的睡眠実験

誰しも一度は、私たちは本当に眠らなくてはいけないのだろうかと考えたことがあるでしょう。


実際にこの問題に挑戦した元気のいい若者たちがいます。


たとえば、1958年にニューヨークのディスク・ジョッキーが連続200時間覚醒し続けました。


彼はタイムズ・スクエアにあるガラス張りのブースのなかから毎日放送をしました。


200時間の終り近くになって舌がもつれだし、そのうちに夜間に妄想が現われてきました。


自分の知らない敵が食べ物や飲み物のなかに薬を入れて、自分を眠らせようとしているといいだしたのです。


日本でも1966年に東京大学の脳研究所所長だった故時実利彦教授が企画された23歳の芸大生の100時間の断眠実験があります。


彼の場合も、1日目は何ともなかったのですが、2日目から少しあやしくなり、3日目には目を離すと立っていても眠ってしまうので、絶えず羽毛 ふとんで眠らないように刺激してやらないといけなくなったそうです。


3日目を過ぎると思考力、判断力、注意集中などが急激に鈍り、錯覚や幻覚が現われるようになりました。


ところが、身体の方は何ともなく、食欲もあり、心臓、肺臓、胃腸、体温などには何の異常もみられなかったのです。


・・・結局、私たちは48時間は眠らないで正常な精神活動ができますが、それ以上になると駄目だということになります。

眠らないとどうなるの?

動物実験ではもっと徹底した実験があります。


生まれてから3、4ケ月のイヌを2つの群に分けて、一方は羽毛 布団で眠らせるけれども食べ物はやらないのです。


もう一方は眠らせませんが、食べ物はいくらでも与えるようにして観察してみると、眠らせない方は半月ぐらいで死んでしまいますが、眠らす方は食べ物をやらないのになかなか死にません。


眠らないで死んだイヌを解剖して調べてみると、脳の細胞がひどく傷害されていました。


つまり眠らないと脳の細胞がやられてしまうのです。


俗に神経を休めるといいますが、脳を休養させることが眠ることの一番大きな役目ということになるのです。


身体の方はたとえ眠らなくても動かずにいれば休まりますが、神経の方は眠らないと休まらないでまいってしまうのです。


眠らないとどんなに脳がまいってしまうかということを、チェーホフの短編『ねむい』はおそろしいほど見事に描いています。


・・・


夜ふけ。


13になる子守り娘のヴァーリカが、赤んぼの臥ている揺りかごを揺すぶりながら、やっと聞こえるほどの声で、つぶやいている。


ねんねんようおころりよ、唄をうたってあげましょう。・・・


聖像の前に、みどり色の燈明がともっている。


部屋の隅から隅へかけて、細引が一本わたしてあって、それに棚裸や、大きな黒ズボンが吊してある。


燈明から、みどり色の大きな光の輪が天井に射し、襯裸やズボンは、ほそ長い影を、暖炉や、揺りかごや、ヴァーリカに投げかけている。


・・・燈明がまたたきはじめると、光の輪や影は活気づいて、風に吹かれているように動きだす。


むんむんする。


キャベツ汁と、商売どうぐの靴革のにおい。

「ねむい」

前回から引き続き、チェーホフの短編小説『ねむい』を引用します。


眠いときに深夜の羽毛 布団 販売番組を見たときかのような気分になる小説です。


・・・


赤んぼは泣いている。


さっきから泣きつづけて、もうとうに声がかれ、精根つきているのだけれど、あい変らず泣いていて、いつやまるのかわからない。


ヴァーリカは、ねむくてたまらない。


眼がくっつきそうだし、頭は下へ下へと引っぱられ、首根っこがずきずきする。


まぶたひとつ、唇ひとつ、うこかすこともできず、まるで顔がかさかさに乾あがって木になって、頭は留針のあたまみたいに、縮まったような気がする。


「ねんねんよう、おころりよ」と、彼女はつぶやく「お粥をこさえてあげましょう・・・」


暖炉のなかで、コオロギが鳴く。


となりの部屋では、ドアこしに、主人と徒弟のアファナーシイのいびきが、間をおいて聞こえる。


・・・揺りかごは悲しげにきしり、当のヴァーリカはぶつぶつつぶやく・・・


それがみんな一つに溶けあって、夜ふけの寝んねこ唄を奏でているのを、寝床に手足をのばして聞いたら、さぞ楽しいことだろう。


ところが今は、せっかくのその音楽も、いらだたしく、くるしいだけだ。


というのは、うとうと眠気をさそうくせに、眠ったら100年目だからだ。


まんいちヴァーリカが寝こんだら最後、旦那やおかみさんに、ぶたれるだろう。


燈明がまたたく、みどり色の光の輪と影が、また動きだして、ヴァーリカの半びらきの、じっとすわった眼へ這いこむと、はんぶん寝入った脳みそのなかで、もやもやした幻に組みあがる。


見ると、くろ雲が、空で追っかけっこをしながら、赤んぼみたいに泣いている。


・・・

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